酒類販売業免許で確認する決算報告書の内容とは?
酒類販売業免許では決算報告書の内容が審査されます
酒類販売業免許を取得するための要件に「財務要件」と「決算要件」というものがあります。
酒類販売業免許では、直近3期分の決算報告書の内容が審査されます。
決算内容が要件を満たしていないと酒類販売業免許 は取得できません。
酒類販売業免許を取得するために最も重要な要件といっても過言ではありません。
酒類販売業免許の申請を検討している場合、まずは決算報告書の内容を確認するようにしましょう。
なお、このページで解説する内容については法人が対象です。
法人は決算内容が審査されますが、個人事業主においては決算要件がありません。
個人事業主の場合は、直近3年分の確定申告書や源泉徴収票など所得や税額が分かる書類を提出しますが、所得や税額が少ないからといって審査が通らないということはありません。
用意するものは「貸借対照表」と「損益計算書」
決算内容を確認するにあたって用意するものは、決算報告書のうち「貸借対照表」と「損益計算書」です。
それぞれ直近3期分をご用意ください。
決算期を1期か2期しか終えていない法人は、確定申告を終えた分だけご用意ください。
酒類販売業免許の財務要件と決算要件とは
それでは酒類販売業免許における決算要件を見ていきます。
まず、国税庁の手引きには、経営基礎要件について以下のとおり記載されています。
酒税法における経営基礎要件
- 免許の申請者が破産手続開始の決定を受けて復権を得ていない場合のほか、その経営の基礎が薄弱であると認められる場合に該当しないこと
経営基礎要件にはいくつかの要件が挙げられているのですが、その中に財務内容と決算内容について具体的に記載されている項目がそれぞれあります。
「経営の基礎が薄弱であると認められる場合に該当しないこと」とありますので、以下の2つに該当してしまうと酒類販売業免許は申請できません。
つまりは欠格要件になります。
1.最終事業年度における確定した決算に基づく貸借対照表の繰越損失が資本等の額を上回っている場合(財務要件)
2.最終事業年度以前3事業年度の全ての事業年度において資本等の額の20%を超える額の欠損を生じている場合(決算要件)
1.財務要件
まず一つ目の財務要件をみていきましょう。
・最終事業年度における確定した決算に基づく貸借対照表の繰越損失が「資本等の額」を上回っている場合
つまり、直近1期分の貸借対照表の繰越損失が「資本等の額」を上回っていないことが必要です。
これは、繰越損失が発生しているケース(繰越利益剰余金がマイナス金額)を指していますので、繰越利益剰余金がプラスの場合はその時点で財務要件を満たします。
「資本等の額」は「貸借対照表」の「純資産の部」の欄で確認します。
国税庁の手引きには『「資本等の額」とは、資本金、資本剰余金及び利益剰余金の合計額から繰越利益剰余金を控除した額をいいます。』とありますので、計算方法は以下のようになります。
「資本等の額」=①資本金+②資本剰余金+③利益剰余金-④繰越利益剰余金
それでは、財務要件を満たしているかを具体例でみていきましょう。
■要件を満たしている例①

上記の貸借対照表では、そもそも④繰越利益剰余金がプラス金額(=繰越損失が発生していない)のため、財務要件を満たしています。
計算の必要はありません。
■要件を満たしている例②

上記の貸借対照表の計算式は以下になります。
「資本等の額」は①1,000+②100-③400-(④-400)=1,100万となり、④400万*が「資本等の額」1,100万を上回っていないため、繰越損失は発生していますが要件を満たします。
*④は繰越利益剰余金としては△400万(マイナス金額)になりますが、繰越損失はマイナス金額を表すものであるため、マイナス(△)×マイナス(繰越損失)=④繰越損失400万となります
■要件を満たしていない例

上記の貸借対照表の計算式は以下になります。
「資本等の額」は①500+②100-③700-(④-700)=600万となり、④700万*が「資本等の額」600を上回ってしまうため、要件を満たしません。
*④は繰越利益剰余金としては△700万(マイナス金額)になりますが、繰越損失はマイナス金額を表すものであるため、マイナス(△)×マイナス(繰越損失)=④繰越損失700万となります
一つ目の要件をまとめると、
① 直近の貸借対照表の繰越利益剰余金がプラスであること
② 繰越利益剰余金がマイナスであっても、繰越損失額が「資本等の額」を超えていないこと
上記のいずれかに当てはまれば、財務要件はクリアします。
2.決算要件
一つ目の要件を満たしていることが確認できたら、次は以下の決算要件を満たしているかの確認に移りましょう。
・最終事業年度以前3事業年度の全ての事業年度において資本等の額の20%を超える額の欠損を生じている場合
つまり、直近3期分の全てにおいて「資本等の額」の20%を超える赤字が生じていないことが必要となります。
決算要件を満たしているかは「損益計算書」の「当期純利益(当期純損失)」で確認します
一つ目の財務要件は「直近1期分」でしたが、二つ目の決算要件は「直近3期分」の確認が必要です。
現在10期目の法人で9期の確定申告を終えている場合、7・8・9期の損益計算書で確認することになります。
直近3期分の全てにおいて、赤字の額が「資本等の額」の20%を超えているときは要件を満たしません。
逆に、3期のうち2期が「資本等の額」の20%を超える赤字であっても、1期が黒字であれば要件を満たします。
また、3期連続赤字であったとしても、そのうちの1期の赤字額が「資本等の額」の20%を超えていない場合は要件を満たします。
それでは、決算要件を満たしているかを具体例でみていきましょう。
(現在10期目、「資本等の額」が1,000万円の場合。「資本等の額」の20%=200万円)
■決算要件を満たしている例①

上記の損益計算書は、3期中2期の当期純利益が黒字であるため、要件を満たします。
■決算要件を満たしている例②

上記の損益計算書は、当期純利益が3期連続赤字で、そのうち2期(第7期と9期)が資本等の額の20%を超える赤字になっていますが、1期(第8期)の赤字額が「資本等の額」の20%を下回っているため、要件を満たします。
■決算要件を満たさない例

上記の損益計算書では、3期連続で「資本等の額」の20%を超える赤字が発生しているため、要件を満たしません。
決算を3期終えてないときはどうするの?
決算を1期あるいは2期しか終えていない法人の場合、二つめの決算要件は審査に含まれません。
「3事業年度の全てにおいて」という部分が物理的に該当しないためです。
この場合、一つめの財務要件のみが審査対象となります。
また、1期目の新設法人には決算報告書がないため、財務要件、決算要件とも審査の対象にはなりません。
要件を満たしていないときの対処法は?
2つの要件を満たしていないときはどのように対処すればよいのでしょうか?
まず一つ目の財務要件を満たしていない場合、繰越利益剰余金がプラスになるよう資本金を増やして(増資)、決算をしなおすという方法があります。
あとは、繰越損失が解消されるまで待つことです。
次に二つめの決算要件を満たしていない場合は、当期純利益が黒字になるまでもしくは赤字額が「資本等の額」の20%を下回るまで待つことです。
「待つ」ということばを使いましたが、ただ単に待っていても(年数が経過しても)、これまで積み重なった赤字が急に黒字化される可能性は高くありません。
黒字化を目指して業績を上げるために頑張る、という意味です。
ここで「裏ワザ」というほどでもないのですが、ひとつ方法をご紹介します。
既存の法人で酒類販売業免許を取得する必要があるときは「黒字化を待つ」しかないのですが、そうでないときは法人を新設するという方法があります。
もちろん設立にかかるコストなどは発生しますが、先ほど述べたように新設法人は決算内容が審査項目に含まれません。
とにかく新たに酒販ビジネスを立ち上げる必要がある、既存法人の黒字化まで待てないといった場合、この方法も一考の余地があります。
2つの要件を満たしていても注意することがあります
酒類販売業免許の審査は概ね2ヵ月 かかります。
審査期間中に決算期を迎えて確定申告をした場合はどうなるのでしょうか?
その場合、新たな決算報告書が審査の対象に加わります。
決算内容によっては、要件を満たさなくなってしまうおそれもあります。
具体例でみていきましょう。
例1)財務要件
・申請時には繰越利益剰余金はプラス金額
・ここ1年の業績が悪く、確定申告をした結果、繰越損失額が「資本等の額」を超えてしまった
→財務要件を満たさなくなってしまった
例2)決算要件
・過去3期のうち直近2期で「資本等の額」の20%を超える赤字だったが、3期前は黒字だったため申請時点では要件を満たしていた
・確定申告でさらに「資本等の額」の20%を超える赤字になってしまった
→3期連続で「資本等の額」の20%を超える赤字が発生したため、決算要件を満たさなくなってしまった
このように、酒類販売業免許の申請時点では要件を満たしていても、審査期間中に確定申告をした結果、要件を満たさなくなってしまう可能性があります。
決算期が近づいた時期に酒類販売業免許を申請する場合、その期の決算状況を注意しながら申請手続きを進めることが重要になります。
まとめると
以上をまとめると
・財務内容と決算内容は酒類販売業免許を取得するうえで、非常に大事な要件である
要件を満たしていない場合、黒字化になるまでに早くて数ヶ月、遅いと数年以上待たなければならない
・申請時に要件を満たしていても、審査期間中に満たさなくなってしまう可能性もある
酒類販売免許専門の行政書士として多数の実績があります。
東京都、千葉県、神奈川県を中心に全国対応できます。
まずはお問い合わせください。


